新編国訳成唯識論
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大学院の先輩の橘川智昭さんからご恵贈頂きました。ありがとうございました。
教科書として作られた本ということで一般向けではありませんが、私にはずいぶん読みやすいと感じられました。ある程度『成唯識論』の勉強をした人にとっては、コンパクトで扱いやすい本かもしれません。
「金山寺と韓国の唯識思想」学術セミナー
4月17〜20日、「금산사와 한국의 유식사상」학술세미나(「金山寺と韓国の唯識思想」学術セミナー)に参加してきた。すでにニュースにもなっているが(미륵도량 금산사 알고 보니 유식이 먼저 :: 불교중심 불교닷컴)、簡単にご報告。
- 概要
- プログラム
通訳をつけてもらった私以外は、すべて韓国語の発表である。私の発表は、事前に送った発表概要がこんな感じ:
新羅では、慧遠『大乗義章』や基『大乗法苑義林章』のような、唯識思想に基づく大乗アビダルマ文献が数多く作られた。義寂にも『大乗法苑義林章』に関連する著作があり、逸文の存在が知られている。義寂の著作は、他の同種の文献に比べて多く引用されており、特色のある文献として重要視されていたのではないかと思われる。
義寂の著作は部分的なもの、逸文として残されているものが多く、その思想を把握するのは難しい。本発表では、唐代で多くの議論があった『法華論』の四種声聞について、義寂がどのような解釈をしていたのか検討することで、義寂の唯識思想の特徴の一端を明らかにしたい。
これまで私がしてきた義寂研究は、最澄・徳一論争研究の一環として書いた“Criticism of the Hosso Theory in Girin Quoted by Saicho: Especially with Relation to Wonhyo and Uijok”という論文一本だけなので、義寂研究者を名乗れるような者ではないのだが(逆に言うと、私に声がかかるほど、研究者が少ないとも言える)、今回このような機会をいただいたことで、新しい視点を手に入れることができたように思う。感謝。
実際に発表した論文では、以下の様な附論(「【附論】唯識派における観仏信仰と金山寺」)をくっつけた(脚注、参考文献は省略)。
최연식氏は、金山寺という場において展開した義寂の唯識思想と真表の占察法による懺悔信仰との関連について、総合的な検討が必要ではないかと問題提起をしている(최연식2003)。本稿では詳細な検討をする余裕がないが、唯識派・法相宗において観仏信仰もしくは好相行(仏・菩薩の姿を見るための修行)を基盤とした菩薩戒が重要視されていたことを簡単に指摘しておきたい。
真表の信仰との関連が深い『占察経』の前半部分は、『梵網経』などの菩薩戒文献に多く見られる好相行に関連すると思われる。有名な木輪相法による占いは、好相行の代替手段として説かれたものと考えられる。『占察経』に基づくと思われる占察法は、『歴代三宝記』や真表の伝記(『三国遺事』)などにおいてしばしば自撲法とよばれる激しい修行法とともに言及されるが、これは『観仏三昧海経』における観仏行から来ていると考えられる。
菩薩戒と言えば『梵網経』が有名であるし、天台大師らの註釈書や最澄による大乗戒壇独立運動などによって一乗的なイメージも強い。しかし、『梵網経』が『菩薩地持経』(『瑜伽師地論』の別訳)に基づいていることは以前より知られているし、山部能宜氏がインドにおける菩薩戒と好相行との関係を論じるなかで「一見合理的に見える『菩薩地』は、実際の使用にあたっては、より神秘的で見仏懺悔の要素を含む『優波離所問経』と対になって用いられたのではないかと思われるのである」(山部能宜2000)と述べているように、『瑜伽師地論』をはじめとする唯識学派の文献において観仏体験は実践論上の重要な要素であった。
東アジアの唯識派の人々も、好相行による菩薩戒の受戒を重視していたであろうことが、いくつかの資料から推測できる。玄奘はインド旅行中、自身の仏性の有無を確認するために、修行者に姿を現すとされる観音菩薩像に花輪を投げる占いを行っているが、これも菩薩戒における好相行と関連があると思われる。また、基の弟子の慧沼による菩薩戒関連の文献『勧発菩提心集』には、「大唐三蔵法師伝西域正法蔵受菩薩戒法」と題された文献が引用されており、ここには受戒の際の懺悔と菩薩種姓の必要性、そして受戒の際の観仏体験などが記されている。日本においては、鑑真来日以前に『瑜伽師地論』や『占察経』による自誓受戒が行なわれており、鑑真来日後も法相宗の賢璟を含む一部の僧が『占察経』を典拠として鑑真からの受戒に抵抗している。その後も古代から中世にかけて日本においては、懺悔による好相行が盛んに行われていた。
以上述べてきたことはすべて情況証拠であり、これだけで義寂の思想と真表の活動とをつなぐことは難しい。しかしながら、義寂が菩薩戒を重視していたことは『菩薩戒本疏』という著作があることからもわかるし、菩薩戒は懺悔や観仏体験という点で『占察経』と深い関係があることは間違いない 。金山寺を含めて、東アジアの唯識派における菩薩戒・懺悔信仰の実態の解明は、今後の大きな課題であろう。
発表の本題にもいろいろ反応がいただけたが、「おもしろい」といってもらったのはこの附論のほうであった (^_^;)
なお、今回の出張では、私に声をかけてくれた崔鈆植さんや、崔さんと同じく東国大に移った金天鶴さんとの旧交を温めることができた。金天鶴さんは、今回の発表者で最近『新羅法華思想史研究』という本を出された朴姯娟さんとともに、東国大学校仏教学術院に所属している。
また、今回はちょっと時間があったので、国立中央博物館も見に行った。とても大きな博物館(しかも常設展は無料!)で、駆け足で見ても1、2時間はあっという間に過ぎてしまう。今回は古代の展示と仏教関係の展示を中心に見たが、日本と朝鮮半島がいかに深い関係にあるか、改めて思い直すことになった。
ついでに、ホテルから徒歩で行ける範囲だったこともあって、所謂「従軍慰安婦」の像も見てきた。これも、日本と朝鮮半島との深い関係を象徴するものと言えるかもしれない。もっと仲良くできないものですかね。
人文学と著作権問題ー研究・教育のためのコンプライアンス
科研費で作った本がでました。
- 作者: 石岡克俊小島浩之上地宏一佐藤仁史田邉鉄千田大介二階堂善弘師茂樹山田崇仁,漢字文献情報処理研究会
- 出版社/メーカー: 好文出版
- 発売日: 2014/02/28
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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本書は、漢字文献情報処理研究会で長年取り組んできた、研究・教育活動をめぐる法律問題についての共同研究をまとめたものです。図書館・博物館などで資料の調査をする際の法的問題、資料や研究成果をデジタル化して公開する際の法的問題、学生に作成させたレポート・卒論の帰属の問題など、人文学・人文情報学や大学教育のなかで直面する法律の問題について考えてきました。たまたまですが、コピペ論文が全国的な話題になっている今日、文系理系の違いはあれ、タイミングがいい出版かもしれません。
法律では人文学に特有な活動などはあまり考慮されていませんので、上記の共同研究では法学者の石岡克俊さんとゼロから考えていく作業を行ってきましたが(本書が対話形式になっているのはそのためです)、人文学とはどのような学問なのか、人格とは何か、みたいなことを考え直すきっかけにもなりました。
ということで、よろしかったら手にとって見て下さい。Amazonで買えない場合は漢情研編集書籍 オンラインショップをどうぞ。
これまでの海外の学会
思うところあって、これまで参加してきた海外の学会をまとめてみた(師 茂樹 - 研究者 - ReaD & Researchmap等ですでに公開されている情報ではあるが)。海外なのに日本語で発表しているのも何回かある(逆に日本での発表なのに英語で発表している場合は除いている)。
- Electronic Buddhist Text Initiative, 1999 Taiwan Meeting(1999年1月18-21日、台湾:中央研究院)
- Electronic Buddhist Text Initiative, 2001 Seoul Meeting(2001年5月25-26日、韓国:東國大學校)
- 韓・日共同印度学仏教学学術大会/日本印度学仏教学会・第53回学術大会(2002年7月、韓国:東國大學校)
- Yogācāra Buddhism Symposium(2002年9月、カナダ:カルガリー大学)
- 師茂樹「「私」を書き残すために ―松本史朗「縁起について」の可能性―」(『GYRATIVA』3、2004年3月)はこの出張での体験を下敷きにしている。
- 2004年韓国仏教学結集大会(2004年5月1-2日、韓国:中央僧伽大学)
- 2004金剛大学校国際仏教学術大会(2004年10月、韓国:金剛大学校)
- 情報処理学会・第76回人文科学とコンピュータ研究会研究発表会/東南科技大学2007国際シンポジウム「人文科学とコンピュータ科学」(2007年9月、台湾:東南科技大学)
- 2010年度 第15回 元曉學研究院 學術大會「元曉學_諸問題II」(2010年11月12日、韓国:仏国寺文化会館)
- 第一屆慈宗國際學術論壇(2013年8月23-25日、香港:香港理工大学)
- Logic and culture: Theories of logic in Buddhist, Muslim and Aristotelian scholastics(2013年11月12-15日、ネパール:Lumbini International Research Institute)
大学の業務等でいくつか断っているとはいえ、たいして行ってないなぁ。これからも機会があれば積極的に参加したい。