世界の心霊写真

夏ということで、ちびたちを恐怖のどん底に叩き落とすために購入したが、あまり怖くなかった (^_^;)

世界の心霊写真 ~カメラがとらえた幽霊たち、その歴史と真偽

世界の心霊写真 ~カメラがとらえた幽霊たち、その歴史と真偽

本書のタイトル『世界の心霊写真 カメラがとらえた幽霊たち、その歴史と真偽』に「歴史と真偽」とあるように、本書は心霊写真の多くが捏造である、ということを実例をあげながら淡々と解説する。日本によくある、やたらと恐怖を煽り、読んだたら祟られるぞ〜的なオーラを発している心霊写真本とは一線を画している。特に秀逸なのは、インドの寺院の上に、象の形をした雲が浮かんでいる写真である。雲がいろいろな形に見える、というのはよくあることであり、それを誰も心霊現象だとは思わない。しかし、それがある宗教的、オカルト的文脈になると超自然的な力によってそのような形に雲がなった、と解釈され、心霊写真扱いされるのである(雲の形を見て、天国のおじいさんからのメッセージだ、などと思う人はいるだろうと思う。それに似ている)。筆者は、心霊写真における読者の心性の本質として、このような読者による読み取り能力(物語り化能力)をあげる。我田引水すれば、マンガにおけるキャラ/キャラクター論などにも通底する問題である。

一方で心霊写真研究者である筆者は、写真撮影のトリックや、上記のような読み取り能力などでは説明できない心霊写真がある、という。その残余を「心霊」とするのかどうかについては判断を保留しているものの、本書が心霊写真の本であることがその残余部分で表現されているのである。

都市と都市

久々に仕事に関係のない本を読んだ。

都市と都市 (ハヤカワ文庫SF)

都市と都市 (ハヤカワ文庫SF)

まったく同じ地域に二つの国家が重なっていて、それぞれの国民はもう一方の国を「見ない」ふりをしながら生活をしている、という舞台設定で、このSF=ミステリ小説の面白さは決定したようなものだと思う。それぐらい魅力的な設定である。そして実際に面白かった。帯に「カフカ=ディック的」みたいなことが書いてあったけど、確かにSF的にも(前述のとおりSF的設定が魅力的)、ミステリ的にも(この小説は、殺人事件を追いかける刑事が主人公)、(言語の用い方を楽しむ)小説的にも楽しめる作品である。

ただ残念ながら、翻訳がいまいちな気がする。原典を当たっていないが誤訳っぽいところもあったし、訳文もこなれていない感じ。あと、非常に初歩的な誤字脱字(博士「課程」を博士「過程」とか)なども見られ、そういうのはやはり興を削ぐものである。なんとかならないものかなぁ。

電脳中国学入門、増刷!

ありがたいことに、好評のようです。増刷しました。

電脳中国学入門

電脳中国学入門

この手の本の常として、どんどん情報が古くなっていくというリスクはあるのですが、それでもここまでの情報を一冊で取得できるのは本書の強みかと思います(増刷時に訂正も入っています)。中国学が専門ではない私も、だいぶ勉強させてもらいました。東アジアの文化や社会を研究対象としている人には、有益なのではないかと思います。

Amazonでもコンスタントに在庫があるようになりましたし、書店で見かけたりしたらお手にとって頂ければ幸いです。

漢字文献情報処理研究会の『電脳中国学入門』のページ

論集文字 第1号 改訂版: 漢字の現場は改定常用漢字表をどう見るか

そういえばこちらでの告知を忘れていました。以前、電子書籍として出版した文字研究会の『論集文字』第1号ですが、紙の書籍としても出版されました。

論集文字 第1号: 漢字の現場は改定常用漢字表をどう見るか

論集文字 第1号: 漢字の現場は改定常用漢字表をどう見るか

私の書いた「【資料紹介】漢字出現頻度数調査」についてはほとんど変更なしですが、他の方のものについてはいろいろ書き換わっているところもあるみたいです。こちらもお手にとって頂ければ幸いです。

からだの文化―修行と身体像

2年前のイベント(仏教の修行マニュアルに見る「身体」イメージ - moroshigeki's blog)でしゃべったことが、本になりました。

からだの文化―修行と身体像

からだの文化―修行と身体像

自分で言うのもなんですが(しかも、まだパラパラめくっただけですが)、武道・格闘技や修行論、身体論などに関心がある人には、たいへんおもしろい本なのではないかと思います。目次は以下のとおり:

  • 夏目房之介マンガにおける修行イメージの伝承」
  • 師茂樹「修行マニュアルを読む―『天台小止観』を中心に」
  • 李保華・野村英登「馬貴派八卦掌と易筋経」
  • 大地宏子「日本近代のピアノ教育における身体イメージ」
  • 野村英登「丹田で歩く―身体イメージがつなげる哲学、信仰、養生、芸能」
  • 山田せつ子「からだを見つける―ダンスが見つかる」

夏目先生の論稿は図版たっぷり(田河水泡『神州櫻之助』「天狗の巻物」『のらくろ武勇談』、宮尾しげを『孫悟空』、山川惣治『少年王者』、手塚治虫「勝利の日まで」「幽霊男」、杉浦茂『少年児雷也』、福井英一『イガグリくん』、福井英一〜武内つなよし赤胴鈴之助』、貝塚ひろし『くりくり投手』、白土三平『忍者人別帳』『忍者武芸帳』、梶原一騎川崎のぼる巨人の星』、梶原一騎ちばてつやあしたのジョー』、宮谷一彦『肉弾時代』、山口貴由覚悟のススメ』)で、戦前から現代に至る身体と修行のイメージを追いかけています。

私のは『天台小止観』の分析を通じて、修行者がどのように身体内部の状態を獲得し、コントロールしていくのか、というような内容。修行者は自身の身体内の状態を認識することができないので、夢見を行ったり、観仏体験をしたり、師匠に聞いたり、と様々な方法を使って確認をしていき、また心の制御においては姿勢や呼吸といった身体の操作を用いる、みたいなのをざっくり紹介しました。

以前、花園大学でもワークショップをしていただいたことのある馬貴派八卦掌の李保華先生の文章が日本語で活字化されているのは、何度か耳にしている内容とはいえ(だからこそ)個人的にとてもうれしいです。

大地宏子さんの論稿は、タイトルからはなかなかわかりませんが、大リーグボール養成ギブスのような機材や、『巨人の星』のようなスパルタ教育が、ピアノの世界に存在していた、というインパクトの強い内容です。これもオススメ。

野村さん(id:nomurahideto)の論稿は、丹田の文化史とでもいうべき興味深い内容。「東洋においては身体もまた表徴の帝国であり、その中心に丹田が存在するわけです」という最後の一文は、「表徴の帝国」をどのように捉えるかによって評価が分かれるような気もしますが、身体論を一種の記号論・言語論的なスキームで捉えようというのであれば展開を期待したいところです(たとえば、目という器官さえあれば見ることができるわけではなく、視覚の文法のようなものがなければ物が見えないように、身体の内部、表面的ではない状態を「見る」ためには、記号の体系(言語的分節のための法則)が必要…みたいな感じ?)。

最後の山田せつ子先生のワークショップの報告は、イベント当日に体調不良で参加できなかっただけに(超残念)、活字化されるのを待っていました。不参加が悔やまれます。

ということで、お手にとって頂ければ幸いです。

 

武道のリアル

押井守氏による武道本ということで読んでみた。

武道のリアル

武道のリアル

押井守氏も、50歳を過ぎてから、作家・今野敏氏主催の空手道 今野塾で空手を始めたという。私もおっさんになってから少林寺拳法を始めたので、押井氏の武道に対する関心の持ち方に共感するところが多い(偶々かも知れないが今野氏の武道観は少林寺拳法のそれと重なる部分が少なくないようにも思う)。押井氏や私のように、資料集めとかが好きで、理屈を捏ねるのが趣味な人にとって、武道というのはたいへん楽しいのである。

最近、私自身のテーマは膝なので(力を抜いたり絞ってみたり)、本書で今野氏が膝を強調しているのはちょっと気になる。今野塾のDVDが観たくなった:

今野敏 沖縄空手 首里手の探求 [DVD]

今野敏 沖縄空手 首里手の探求 [DVD]