可能性の種子たち

可能性の種子たち―魂魄(こころ)を育てる

可能性の種子たち―魂魄(こころ)を育てる

少林寺拳法の先生の自伝である。他武道、例えば空手の場合、この手の自伝はたくさんあるような気がするが、少林寺拳法では珍しい気がする。

武道家の自伝と言えば、何と言ってもヤンチャ自慢、武勇伝の類を期待するのが世の常なのであるが、この本にはそういうのがほとんどない。乱取り大会時代に学生トップクラスの部を率いていたということで相当強いと思うんだけど、せいぜいからまれたときに抜き技をやったとか、その程度。

逆にここに書かれているのは、大学で練習に明け暮れ、本山に入り、物足りなくて就職し、また本山に戻るも世界が見たくて渡米してヒッピーと交流したり、帰国して道場を持つも少年部の教育に迷ったり(このへんちょっと泣いた (^_^;;)、開祖とともに訪中したり映画『少林寺』に悪役で出たり(このへん、カンフー映画好きにはなかなか興味深いエピソード)、原始仏教の勉強をしたくて中村元先生に師事したり、子供がいるのに「西洋心理学と東洋思想の出会いの場所」であり「精神世界のメッカ」であるエサレン研究所に住み込みで勉強して最後には「気」を我がものにしたりと、バイタリティーあふれまくる求道者、というかもうほとんどリヴィング・レジェンドの姿である。淡々とした筆致がかえって迫力を増している。

人生観というか哲学を語るところも、このようなすごすぎる人生経験がバックにあるので、全然お説教臭くなく、むしろすごくおもしろかった。吉田豪氏にインタビューしてもらいたいよ!