〈癒す知〉の系譜((ISBN:4642037047:detail))

最近流行している「癒し」系の運動について、明治以降の動きを概観し、いくつかの評価軸を提示する。主な登場人物は、「食養」系としては食養会石塚左玄マクロビオティック桜沢如一、心理療法系では精神療法の呉秀三東洋大学を開いた井上円了先生、森田療法森田正馬、森田の後を継いだ水谷啓治や長谷川洋三など。

この本は「食」と「心」にしぼって〈癒す知〉の系譜を概観するという感じで、その意味ではちょっと物足りない気もする(例えば、武道を視野に入れるとかなり豊かな、でも複雑な議論ができるのではないかと思う)が、宗教学的な対象としてはこれまであまり手がつけられてこなかった分野を開拓するという意味では意義深いのだろう。また、「近代知」対「代替知」のような、いくつかの評価軸を提示しているのも今後の研究に役に立つのではないかと思う。例えば、〈癒す知〉を科学(医学、生理学、農学など)と宗教との中間的なものと捉えた時、大学などに代表される知の制度によって権威づけられた専門家(医師など)の存在を重視するか、そのような制度を否定乃至超えようとしているか、という軸で振り分けることができる。また、このような〈癒す知〉を単なる技術として考えているか、そうではなく通常の物理学的な世界観とは異なる世界観(宇宙生命みたいなやつ)が現実化したものとしてとらえるか、など。上に挙げた主要人物をこの評価軸で分類すると、こんな感じになる。

  専門家 非専門家
世界観なし 石塚左玄呉秀三
世界観あり 森田正馬井上円了 桜沢如一、水谷啓治、長谷川洋三

言うまでもなくこれらの〈癒す知〉は、養生論や東洋医学、易をはじめとする中国哲学、仏教などが強く影響しているし*1、また同時代に欧米においておこったエコロジーや反科学主義、優生思想などとも関連している。

個人的には、ちびたちが通っている幼稚園がかなり初期の頃からマクロビオティックに共鳴し*2、そのような給食(これがまた、かなりうまい)を出していることもあって、桜沢如一“先生”の思想について論じた部分はかなりおもしろく読めた。桜沢が第二次大戦時に戦争協力的な発言をし、また優生思想に共鳴していたというのは、ある意味、マクロビオティックがブームになっている現代の状況に似ているのではないかと思う。

*1:本書の中で、仏教と東洋医学を分けて論じているような箇所も見られるが、そこら中にある病気治癒系のお寺さんの存在や白隠の著作などを見ても、これらが混在しているのがむしろ自然な姿なのではないかと思う。

*2:そう言えば夏祭りに「いのちのふしぎのみこと」が出てきたような気がする。