(いろんな意味で)傑作だなぁ、これは。
- 作者: 伊藤計劃
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2008/12
- メディア: 単行本
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id:Projectitoh氏の訃報を聞いて、急に読む気が失せ、積ん読になっていた。この作品は入院中に書いていたとのこと*1。私は今回、たまたま入院しているちびたちの付き添いで、この作品を病院で読んだが、何ともつきづきしいというか、衝撃的というか*2。著者は、脳にガンマナイフをあてなければならないような重い病気に罹っていながら*3、医療が高度に発達し病気という病気がほとんど駆逐された近未来社会をディストピアとして書いたのである。作者のことをいちいち気にしていたら作品なんか読めないのだが、知ってしまったことを思い出さずに読めというのもまた無理な話である。
作品の本質と関係ないところで興味深かったのは、本作が Emotion-in-Text Markup Language (ETML)*4のソースという体裁で書かれていることである。ソースなのでタグ丸出しなのであるが、中にこういう箇所がある(54頁)。
マークアップに関心がある方ならすぐに気付くと思うが、このテキストはソースであるにも関わらずルビが振られている。現在のプレーンテキスト的な考え方からすれば、このルビもまた何らかのマークアップによって実現されなければならない。つまり、深読みすれば、この時代のテキストファイルは、現在のプレーンテキストのような一次元の文字コード列ではない、ということになる(これに関連することは『漢字文献情報処理研究』第10号に「GraphText 紙テープに呪縛されないテキストデータの試み」という論文を書いたので、よろしければご笑覧下さい…って、結局自分の宣伝かよ orz)。