版の誘惑展

3〜5日は日本印度学仏教学会の学術大会の関係で、名古屋に出張していた。

せっかく名古屋まで来たのだから、ということで、学会を一部サボって、先日の「ワークショップ: 文字 ―(新)常用漢字を問う―」の懇親会で参加者の方に紹介して頂いた特別展 「版」の誘惑展|名古屋市美術館を観てきた。

最初に全体的な感想を書いておくと、とても良い展覧会であった。版画だけでなく印刷や写真、果てはフラッシュで網膜に焼き付けるものまで、幅広い「版」の芸術が目を(いろんな意味で)楽しませてくれただけでない。「版」であるがゆえにすべての作品に複製の可能性があり、そこから同一性や真贋、匿名性、流通などの問題が出てくるし、また何かに刻み付けるために痕跡のなどの問題も出てくるのであるが、展示においては(単なる名品ではなく)それらを意識した作品を選んでいたように思う。

また、入り口で渡されたパンフレットには、各作品に対して、参観者のリテラシーを高めるような質問と、それに対する解答が書かれていた。例えば、ジョン・ケージの版画の連作については、こんな感じ:

ここでは版画による連作をご紹介します。
連作といえば、ひとつひとつの作品は何らかの関係でつながっています。
版画の場合、その特性を活かし、例えば部分的に同じ「版」を用いて、別々の作品に同じモチーフを繰り返し登場させる、といったことができます。

◎では、ジョン・ケージの制作した《七・日・日記》のそれぞれには、どんな関係があるでしょう?
この作品はある一週間に、一枚ずつ、順番に制作されたものです。

答えは展示を観に行け!ということで(ヒントは『易』)。こういうのがほぼ全作品に対してつけられている。これらの工夫が、「版」の持つ問題系――これは一般キャラクター論に大きく関係する――をうまく展示として表現していたように思う。

残念ながら、図録は作られてないらしい。図録は欲しかったなぁ。