鹿男あをによし(([asin:434401314X:detail]))

テレビの方は観ていないが、あらすじを耳にして興味を持って読む。微笑ましいファンタジーである。さらっと読めてしまって少々あっけなかったが、なるほど人気が出るのもわかる気がする。と同時に、自分が住んだり、しょっちゅう出かけたりするところが、こういうファンタジーが似合う場所だということをうれしく思う。京都が舞台の船越英一郎主演の殺人事件ドラマより、この小説のファンタジーの方がずっと自然だし、ずっと気持ちがいい。

この小説は、大げさに言えば、青春小説を仮装した“まれびと”による儀礼の記録であるとも言えるだろう。主人公は知らず知らずのうち神話的な過程を経て奈良にやって来て、国を(一時的に)安定させる儀礼を行い、それが終わると奈良を去っていく。儀礼、お祭りと考えると、途中の剣道の試合や女子生徒とのいざこざも、すべて不可欠な要素な気がしてくる。

まあ、これは考え過ぎかもしれない(また、細かい齟齬をあげつらえばきりがない)。ただ、こう思わせる程、この小説は(その軽妙な調子とは裏腹?に)隙がない気がするのである。