北京なるほど文化読本

編者の千田大介さんよりご恵贈いただきました。ありがとうございます。

北京なるほど文化読本

北京なるほど文化読本

タイトルだけ見るとよくある紹介本のひとつみたいだが、ページをめくるたびに書名通り「なるほどー」を連発するような内容。特に北京オリンピックが開幕した今だからこそ、この本は読まれてほしい。

例えば今朝の『京都新聞』の「凡語」(天声人語みたいなやつ)には、こんなことが書いてあった。

中国の映画界は長く政治に翻弄されてきた。共産党の政治闘争の手段にされ、文化大革命では多くの映画人が自己批判を強いられた。文革後も当局による検閲や管理は続いたが、一九八〇年代に入って張さんらいわゆる「第五世代」が登場する▼社会的抑圧の中で生きる人々を描いた「紅いコーリャン」でデビュー。「菊豆」は当局の逆鱗に触れ、上映禁止に。その張さんが「国威発揚の象徴」を演出したことは歴史の皮肉な巡り合わせか

この記事には、国家による統制 vs. 芸術家による自由な表現、という暗黙の二項対立が見え隠れする。確かに、中国の映画業界は政治と無関係ではないし、その理不尽さは「翻弄」という言葉がよく似合う(この本を読んでると、理不尽さはテレビの方がすごいみたいだけど)。しかし、千田さんによると、中国の映画界における「上映禁止」の実態は次の通りであるという。

…中国における発禁処分は、道徳上の問題から下されるケースが大半で、政治的理由によることはむしろ稀である。小説では、センセーショナルな若者生活やセックスの描写が社会的な話題になり、相当に売れた後になってから発禁処分が下される例が多い。定年退職したお堅い共産党の元幹部が話題作を読み、目くじら立てて当局にねじ込み、発禁処分を下させているのが実態だとも言われている。

映画では中国・香港合作のコメディー映画『少林サッカー』が発禁になっているが、それは中国当局の作品審査の完了を待たずに香港で公開したという、手続きミスに対する懲罰であり、内容とは全く関係ない。(p. 13)

『菊豆』*1がどういう経緯で上映禁止になったのかは知らないが、「当局の逆鱗」は一枚だけじゃないみたいである。こういう、ロマンチシズム過多な日本人が勝手にイデオロギー的対立を読みこんでしまう例はほかにもいろいろあるようで、

中国ロックは日本でも注目された。学者やマスコミが中国ロックを持ち上げ、崔健や唐朝楽隊が来日コンサートを開き、日本のレコード会社も中国ロック業界に参入していった。ただ、必ずしもその音楽性が評価されていたわけではなかった。むしろ、ロックというジャンルが持つ反抗精神を天安門事件に重ね合わせ、かれらに「反体制」の夢を見ていたフシがある。(p. 61)

なんて例もあるとのこと。

そして、今回のオリンピック開幕式のイベントは、本書のキーワードのひとつ「文化保守主義」を、わかりやすく体現したものなのだろう。このへんは中華・電脳マキシマリズム | 五輪開幕式を読むべし。

このほかにも、いろいろ抜き書きしたいところがあるが*2、面倒なのでこのへんで。ぜひ多くの人に読まれてほしい本である。

*1:[asin:B00005FX1E:detail]

*2:北京料理は「山東料理の分派」に過ぎないが、その「山東料理の伝統的調理法を継承するのは、今や世界中で東京四谷の済南賓館の佐藤孟江氏だけになっている」とか。四条大橋の東華菜館の立場はどうなる (^_^;;