ソラリス

スタニスワフ・レム(沼野充義訳)『ソラリス』(国書刊行会、2004) ハードSFの古典『ソラリス』の、ポーランド語原典からの新訳である。かつて読んだ、誰もが知ってる早川文庫版はロシア語訳からの重訳だったそうで、原稿用紙40枚分ぐらい削除されていたそうである。しかもその部分こそが、今回読み直してみて個人的に非常に面白かったところだったので、かなりいい加減な衝動買いだったとは言え、自分の勘?をほめてしまいたくなる。 カットされたのは、ソラリス学(という架空の学問領域)についての研究史が述べられるところと、ソラリスの様々な形態について細かく述べている箇所であり、確かに訳者の言うように一般には面白くないところかもしれない。私から言わせると、ここで述べられているのは、言わばソラリス学のメタヒストリーである(実際にちらっとそういう研究の紹介も出てくる)。レムはこれを通じて宗教や科学一般に見られる神人同形論的把握を相対化する一方、それを超えた“他者”の可能性をソラリスの描写と併せて浮き彫りにしようとしている。宗教研究をやっていて、メタヒストリーみたいなのにも興味がある人は、つまらないどころかむちゃくちゃおもしろいところだと思う。 興味深いことに、このような表現は、共産主義を(宇宙において)最高の発展段階とする当時のソ連などでは、人間の知性を相対化するものとして危険視?され、それで早川版のような大幅カットになったということである(逆に言うとポーランドは東欧にありながらそういうのがOKだったということらしい)。そりゃーそうだね。 映画はどちらも「愛の物語」にフォーカスしちゃってるそうなので、急に見る気がなくなってきた (^_^;; いや、愛の物語も嫌いじゃないんだけど。