私の名前が載っていると聞いて読んでみた。
- 作者: 東野治之
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2009/11/21
- メディア: 新書
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確かに、2003年に発表して以来、ほとんど反響のなかった (^_^;; 私の論文「相部律宗定賓の行状・思想とその日本への影響 ―『四分律疏飾宗義記』に見える仏身論を中心に―」(『戒律文化』2、2003年3月)を引いていただいている(26ページ)。たいへんありがたいことである。鑑真は道宣の南山律宗を日本に将来したという『律宗綱要』的な日本律宗史観に対して、鑑真やその周囲の人々は相部律宗という(現在から見ればマイナーな)律学を修め、日本でも南山律宗と並びかなり力を入れて講義していたのではないか、という、私がこの論文で主張した説が全面的に?採用されていたので、たいへんうれしい。
ただ、残念ながら、東野氏は、
実は相部宗の戒律解釈には、天台の思想が影響しているとする研究が出ていて(師茂樹「相部律宗定賓の行状・思想とその日本への影響」)、それは正しいと思われます。天台宗では、きわめて大乗的に、一切のものが仏になることのできる素質を持っていると考えますが、それが相部宗に反映していて、天台宗を学んだ鑑真は、そこに共感したというわけです。
と書いておられるが、私は相部律宗の教学に天台教学が影響しているとは書いていない(拙論では相部律宗の定賓の律学を、唐代に法相宗の慧沼らと仏性論争をした法宝と同じ系列に属するのではないかと主張している)。これは天台宗の最澄が定賓の教学を法相宗批判に利用したことからの誤解であろう(最澄は、戦略として、天台宗と矛盾するような学説であっても、敵の敵は味方とばかり、法相宗批判のために援用する)。それにしても、一乗=天台宗という図式って、すごく強いんだなぁと改めて思う次第。
ついでに言うと、本書にはこの他にも仏教学的な部分は間違いが少なくない。仏教学側からの新しい(そしてマニアックすぎない)鑑真伝が書かれなくてはならないのではないだろうか、という思いを強くした(というか、自分で書いてみたい気もする)。