ラカンを勉強したいという学生からおすすめのラカンの入門書を聞かれたので、Twitter上の皆さんに質問したら、いろいろ紹介していただいた。その中の一冊*1。
- 作者: 斎藤環
- 出版社/メーカー: バジリコ
- 発売日: 2006/11
- メディア: 単行本
- 購入: 13人 クリック: 139回
- この商品を含むブログ (164件) を見る
確かにわかりやすかった。ラカンの用語は用語として、とりあえず字面にとらわれずに日常語に置き換えている(ラカンの言う「他者」とは要するに「言葉」のことだ、みたいに)のが成功しているように思う。
哲学や思想の理解においては、どんな抽象的なものであっても、ある程度は“実感”が持てるようにならないと、それを血肉化して思考をすることが難しい。「実感を持つ」というのは、具体的な事例に置き換えて考えるということではなくて、抽象的なものが抽象的なままでリアリティを持てるような感覚を持てるようになることで、例えば数値とか三角形などはどんなに抽象的な思考が苦手でも、たいていの人が抽象的なままでリアリティを持っているんじゃないかと思うし、数学が得意になってくるとかなり複雑なものでもありありと思い浮かべることができるようになる。
この本はとっつきにくいラカンの用語に実感を持ちやすくする工夫をし、また現代的な問題をラカン的に読み解く「脱線」を繰り返すことで、ラカンを使って思考できるようなれるような教育を行っているのではないか、と思えてくる。そしてそれは、けっこう成功している気がする。
なお、ちょこちょこ仏教との比較がでてくるが、確かにけっこう共通する部分はあるとは思うものの根本的に違う点もあるので、仏教研究者としてはこれは必要ないと思う。まあ、精神分析と仏教とを「比較」研究している人の言葉が、著者の耳に入ってくるのかもしれない。
*1:これ以外にも、以下の本を紹介していただいた。感謝。[asin:4061492780:detail][asin:4480090142:detail]