本山合宿1日目

(この日記は3月13日に書いています。)

午前0時。大学の正門に車を停めてしばらく待っていると、少林寺拳法部の学生がやってきた。これから少林寺拳法の本部がある香川県の多度津へと、学生を乗せて深夜のドライブである。9日の朝から始まる大学生の本部合宿に間に合わせるためには、この時間に出発するしかない。金銭的に苦しい学生を合宿に参加させるために私が車を出すことにしたのだが、月曜日は一日会議であったため、このような強行軍となったのである。もう一人、三条通のコンビニで学生を拾って、いざ多度津へ。

深夜の高速道路はガラガラで、全くスムーズに瀬戸大橋を渡ることができた。出発前に少し仮眠をとったのと、助手席の主将がずっと話し相手になってくれたおかげで、眠気に悩まされることもなかった。しかし、途中から雨が振り出し、瀬戸大橋を渡る頃にはみぞれ混じりになっていったのが、不安をかきたてた。まだ朝日が見えぬ5時ぐらいに丸亀市内のマクドナルドで軽食をとったあと、本部の駐車場で2時間ほど時間を潰すことにしたが、自動車の席ではなかなかゆっくりすることができない。フロントガラスに叩きつけるようにふる雨がうるさくて仮眠をとることもできないまま、集合時間になる。

はじめての本山合宿は、3月だというのに真冬のような寒さの中、始まった。開会式場の錬成道場にはストーブが焚かれていたが、それ以外の場所は要するに冬の体育館である。そんな中を裸同然の道着と裸足で歩きまわるので体が縮こまる。それでも、基本練習が始まるとだんだん体が暖まっていく。とは言え、ほぼ徹夜状態なので、だんだん吐き気がしてくる。午前中の資格別技術講習でやった十字受蹴りで、回し蹴りを受け損なって手首がぷっくり腫れてしまった。

午後の前半は学年別技術講習だったので、茶帯の私は1年生のクラスを受講した。その後、グループワーク修練という時間割になっていたので何かと思ったら、なんと大学の初年次教育などでよく行われるグループワークであった。少林寺拳法の技術向上という制限はあるものの、大学混在の6人1組のグループを作って、問題発見→目標設定→練習計画策定→練習→成果発表(プレゼン)というプロセスを4日間で行い、問題発見とその解決、そして社会性を養うというものであった。これはすばらしい。社会人基礎力にも通じる。特に、花大少林寺拳法部には現在2名しか部員がいないので、こういう機会は貴重である。これも1年生のクラス(団体演武を作るという課題)を脇で見学させていただいた(私も学生のグループに混ざるという選択肢もあったが、1年生に30代の教員が混ざるのはあまりよくないと判断した)。見取り稽古というやつである。

もっとも、もう少し工夫ができるのではないか、と思うところもあった。例えば、グループワークが終わった後、各グループで立てた目標を発表する際、「自己満足でもいいから楽しく演武をやりたいと思います」という“目標”は、問題発見もしていないし、社会性の養成にもつながらないので、明らかに今回のグループワークの趣旨にかなっていないが、指導員の先生はそれに対してコメントすることはしなかった。もちろん、運営面、特に時間的制約もあるだろうし、そもそもこのグループワーク修練の趣旨に私が過剰に思い入れをしているだけかもしれないが、せっかくのすばらしいコンセプトの修練がちょっともったいない気がした。

そんなこんなで一日目の日程を終え、道場開放で軽く乱取などをしたあと、宿舎へ向かうために駐車場へ。外は軽く雪が積もっていた。ワイパーを動かすと半ば凍ったみぞれの塊がざらりと落ちる。こんなに寒かったのか。地図を見ながら、夜の冷たい雨の中を車を走らせるが、目的地だと思われるところに着いても宿舎らしいものが見当たらない。30分ほどぐるぐる探しまわっても見つからない。たまたま同じ宿舎に泊まっているという別の大学の学生さんを見かけたので聞いてみると、場所はあっているが「廃墟みたいな、アパートみたいな建物」なので、よく見ないと見つからないという。なんと。もう一度、その場所に行ってみると、確かに「廃墟みたいな、アパートみたいな建物」がある。疑心暗鬼になりながら車を駐車場へ停めて中に入ると、たしかにそこが宿舎であった。
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お風呂はぬるかった。主将はホームシックにかかって、「家の犬が恋しい」などと言い始める。もう一人は疲労困憊なのか、宿舎に着いて夕食を食べたらすぐに寝てしまった。
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外は相変わらずの荒天ですきま風も吹いていたが、薄っぺらい布団と毛布はなぜか異様に暖かく、泥のように眠ってしまった。