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シャルチエの電子書籍論

『みすず』2009年12月号所収のロジェ・シャルチエ「デジタル化と書物の未来」を読んだ。シャルチエと言えばヨーロッパにおける読書の歴史の大御所である。その大御所が、昨今のGoogleをはじめとする書籍の電子化、あるいは電子図書館関連の問題を語るのだから必読であろう。

読むことの歴史―ヨーロッパ読書史

読むことの歴史―ヨーロッパ読書史

  • 作者: ロジェシャルティエ,グリエルモカヴァッロ,Roger Chartier,Guglielmo Cavallo,田村毅,月村辰雄,浦一章,横山安由美,片山英男,大野英二郎,平野隆文
  • 出版社/メーカー: 大修館書店
  • 発売日: 2000/05
  • メディア: 単行本
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書物の秩序 (ちくま学芸文庫)

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読書の文化史―テクスト・書物・読解

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ついでに言えば、フランスは電子図書館に関しても先進国であり、有名なところではデリダスティグレールなどにも電子テクスト論がある(いずれここでも紹介したい)。一方でフランスは、よく知られているようにGoogle=アメリカの文化的専横とでも言うべき状況に反対論をぶっている国でもある。その意味でも、ヨーロッパを代表する知識人の発言はなかなか意義深い。

さて、「デジタル化と書物の未来」というこの短いエッセイを読んだ感想として、次の3つのことが印象に残った。

  1. 紙の書籍は「媒体とジャンルと慣習」が密接に結びついているが、デジタル化されたテクストは「ジャンル」や「慣習」を剥奪し、その中身だけを対象とすることになる。そして、Googleの狙っているのはそこ。
  2. 企業がビジネス目的で行っているのは問題。特にGoogleの市場独占には懸念。
  3. デジタル時代には、これまでの著作権、保存、保管の枠組みでとらえることができない「独自のエクリチュール」について考える必要があるが、これをGoogleの問題と混同してはならない。

1つ目は、ある作品の一部分を読む場合でも、作品全体、あるいは作品が所属しているジャンルと関連づけられて読まれる、という従来のあり方が、書籍等のデジタル化と検索による部分へのダイレクトアクセスによって失われてしまうのではないか、という懸念である。次の雑誌の例がわかりやすいかもしれない:

雑誌の概念でさえも不確かなものとなってしまう。記事を参照しようとする時、各号を構成する編集方針がただちに理解できず、記事がテーマ別に羅列されている場合だ。継続性がなく、断片化された新しい読み方は、テクストと作品の関連性を支配し、それらの特性と一貫性において指名され、練り上げられ、適合してきたカテゴリーを居心地の悪いものにしていることは確かだ。

そしてシャルチエに言わせれば、このようなジャンルなどを無視した部分へのダイレクトアクセスは、書物の内容を「情報」化することであり、これこそがGoogleが「商機」ととらえていることであるという。これに関連して、こんな提言をしている。

…必ずしも全ての「文書」がデジタル化される必要があると思わずに、優先順位を決定すること。続いて、グーグルのように情報の鉱脈としてではなく、著述文化と出版業を生み出し今でも存続させている言論識別の基準を尊重し一貫性のあるものとして、電子書籍のデータベースを構築すること。

「言論識別の基準」は少しわかりにくいが、おそらく上で言う「ジャンル」と同様に、テクストを読む際にある種の“予断”を与えてくれるものであろう。大規模な書物のデジタル化は、このようなものもいっしょにされなければならない、というのである。

2つ目はよくある話だが、「国家が負わなくてはならない長期にわたる文化政策の投資を民間のオペレーターに丸投げしないこと」という発言はさすがヨーロッパという気がする。

3つ目も興味深い。上の1つ目の議論だけを見るとシャルチエは守旧派のようにも見えるが、3つ目では、デジタル技術によって可能になった、従来の冊子本や著作権という考え方から解放された新しいエクリチュール*1のあり方を否定しているわけではなく、むしろそれらを如何に後世に伝えるか、というような問題に取り組まなければならない、と述べている。しかし、そういう電子テキストの新しいあり方を肯定することが、Googleのやっていることの肯定になるわけではない、とも述べている。これ重要。Google=新しい=賛成、というロジックが割と蔓延していると思われる昨今、シャルチエのこの指摘は肝に銘じておきたい。

*1:例としてAntonio Rodrigues de las Herasの名前をあげている。電子テキストでいろいろやってるみたいだが、スペイン語なのでよくわからない (^_^;;