シュトヘル

最近ブログの記事がマンガばっかりなのは、ついこの間まで忙しすぎてマンガが読めなかったからである。今、積んでいたマンガを崩しているところ。ということで、Twitterの文字な人たちの間で話題になっていた『シュトヘル』。

シュトヘル1 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

シュトヘル1 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

シュトヘル 2 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

シュトヘル 2 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

舞台は13世紀、現在の中国の甘粛省あたり、モンゴルに滅ぼされる西夏近辺が舞台。背表紙に書かれているあらすじを引いておこう。

13世紀初頭。史上最強と言われる蒙古軍から「悪霊(シュトヘル)」と恐れられた女戦士がいた――――
かつては蒙古の脅威に怯える西夏国(タングート)の一兵士に過ぎなかった彼女だが、数々の死線をくぐり抜け超人的な強さを手に入れる。一方、蒙古側の皇子・ユルールは敵方である西夏文字に見せられ、その行く末を案じていた…………

これを読んだだけでも手にとってしまいそうな人もいそうだが(私もそうだ (^_^;;)、期待に違わずおもしろいマンガである。

文字界隈の人々には、西夏文字を守る!という皇子の姿が強い印象を与えたようだが、確かに筆ペンで西夏文字習字を始めてしまいそうなほど魅力的である。西夏文字Tシャツも買ってしまいそうだ(参照)。ただ私は、それに加えて「記憶」というテーマに強くひかれた。皇子ユルールは滅びゆく国の文字を残すことで、人々の記憶を伝えたいと考える。皇子は言う:

――文字は、人を憶えておくために生まれた。
遠くにあっても、時を越えても、人と人とが交わした心を伝え続ける……
だから心底美しい。
おれはあこがれる――

もうひとりの主人公であるシュトヘルもまた、モンゴル軍(の尖兵となったユルールの兄)に殺された仲間たちの「おまえだけは…俺達を…忘れないでくれ」という「声」のために生き、またその「無念」を晴らすために生きている(だからこそ悪霊(シュトヘル))。しかし、その「死者の声」によっては、彼らが生きていた頃の姿をはっきりと想起することができない。ユルールが西夏文字で書いた仲間たちの名前を見て(読めないので)、その顔を思い出すのである。また、その他の登場人物のなかにも、侵略され略奪された者としての屈辱に耐えながらも、子孫を残すことで「ここに生きていたことを誰かに伝えたい」と忘却されてしまうことへ抵抗しようとする者もいたりする*1。これらは「死者の声」を聞くことや、文字で書く=歴史叙述という問題にも関わってくることで興味深い。

最初の方でちょろっと出てくる現代とのつながりも、もしかすると「記憶」という部分でつながってくるのかも知れない。

また、シュトヘルの戦い方も印象的だ。狼の毛皮を身に纏い、その能力を身につけたかのようなシュトヘルの戦いのシーンは、通常の右→左的な動きの描写ではなく、上→下という動きで印象づけられているように思う。

まだまだ始まったばかりという感じだが、続きが楽しみだ。

*1:北條さんの[http://blog.goo.ne.jp/khojo0761/e/078fe058e62f614f9befe3c551b66a84:title]を思い出した。