民主党政権下におけるデジタルアーカイブ政策の行方 (2)

先に書いた民主党政権下におけるデジタルアーカイブ政策の行方 (1) - もろ式: 読書日記に対して、デジタルアーカイブについて雑感: やまもも書斎記からトラックバックを頂いた。実はそこで紹介されているデジタル・アーカイブの推進に向けた申入れ―「デジタル文明立国」に向けて― - コラム | 野田聖子オフィシャルホームページを、今回のネタにしようと思っていたので、グッドタイミングであった。

自由民主党政務調査会に設置されたデジタル・アーカイブ小委員会の存在は、(広い意味での)デジタルアーカイブに関心がある人には広く知られていると思う。この委員会は2002年に坂井隆憲氏を委員長として設置され、以来、山口俊一議員、野田聖子議員が委員長をしている。

この3人の議員には共通点がいくつかある。ひとつは、靖国神社への参拝に積極的だということである。野田議員が先の終戦記念日において閣僚でただ一人靖国神社に参拝したことは記憶に新しいが、坂井氏・山口議員も「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」のメンバーである。これを踏まえると、野田聖子委員長の名前で出された「デジタル・アーカイブの推進に向けた申入れ―「デジタル文明立国」に向けて―」という文書に、

・二十一世紀以降続くデジタル文明期において、教育、産業、国民に開かれた政治、文化外交、安全保障などは、利用できるデジタル情報に依存する。また、ナショナル・アイデンティティ、人類史における日本と日本人の位置付けなどは、デジタル情報をいかに後世に残していくかにかかっている。このことを常に念頭において、本提言が関係者、各関係機関の連携・協力により早急に実施されることを強く要請する。

という一文があることに、注目せざるを得ない。

また、野田・山口両議員は、郵政民営化に反対して自民党を離党したという点でも共通する(坂井氏は郵政国会以前に政治資金規正法違反で捕まって離職している)。郵政民営化は「デジタル文明立国」や靖国神社参拝などと関係がないようにも思われるが、岩本通弥氏の「「文化立国」論の憂鬱 ―民俗学の視点から―」(『神奈川大学評論』第42号、2002年)を読むと、そのつながりが見えてくる。

岩本氏の議論を大ざっぱにまとめるとこうである。ウルグアイ・ラウンドによって農産物への直接的な保護策がとれなくなった代替策として、地域のお祭りや芸能などの伝統文化を保存・振興・活用する事業に各省庁が補助金を投下することで、農村への補助金を実質的に維持する方法が考えだされた。その結果、文化庁の予算が(他の省庁の予算が削減されていく中)右肩上がりに上昇していくのであるが、これを指示したのが当時の政調会長であった亀井静香議員である。

文化庁が1999年に出した「伝統文化を活かした地域おこしに向けて」という文書には、

文化は,人として生きるあかしであり,創造的な営みの中で,自己の可能性を追求する人間の根源的な欲求,生きがいである。また,人々の心のつながりや相互に理解し尊重し合う土壌を提供することで,心豊かなコミュニティを形成し,社会全体の心のよりどころとなる。さらに,国民性を特色付けることで,国民共通のよりどころとなるものである

http://www.bunka.go.jp/1hogo/main.asp%7B0fl=show&id=1000007788&clc=1000011213&cmc=1000007016&cli=1000007784&cmi=1000007786%7B9.html

という形で、地域(農村)の文化=国民性、というような等式が作られていく。これは先の「デジタル・アーカイブの推進に向けた申入れ」に見える「ナショナル・アイデンティティ」と共通すると思われる。また、この文書では、3. 地域の博物館・美術館の活動の振興という章の「[5]文化財情報のデジタル化の推進」という節で、「地域の博物館・美術館が所蔵している文化財に関する情報の蓄積・保存・公開等を行うことにより,文化財を次世代に継承していく上で,文化財に関する情報のデジタル化を推進することは有効である」などと述べられている。

ところで、文化庁の増額した予算の多くが「ふるさと文化再興事業」にあてられているのであるが、これを実質的に行っているのが公益財団法人伝統文化活性化国民協会である。この協会の設立においては、神社本庁綿貫民輔議員(現職の神職)を会長とする日本伝統文化活性化議員連盟である。地域のお祭りや芸能においては、神社が中心となることが多い。つまりこの事業の裏テーマとして、神社本庁による信者獲得プロジェクトがあったのである。

上に名前の出た亀井・綿貫両氏は、郵政民営化に反対して自民党を離党し、国民神道(←変換ミス (^_^;;)じゃなくて国民新党を立ち上げている。また綿貫氏は、みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会の会長であり、神社本庁靖国神社を支持している。デジタルアーカイブの政策は、まさに地方の農村の保護、「ナショナル・アイデンティティ」、日本の伝統文化などといった一連の問題系に属しているのである。

今回、亀井議員が閣僚として民主党連立政権の中核に入ったが、このことがデジタルアーカイブの政策にどうでるのか、気になるところである。