読んだ。
ロラン・バルト美術論集―アルチンボルドからポップ・アートまで
- 作者: ロランバルト,沢崎浩平
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 1986/07
- メディア: 単行本
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この本は「美術論集」という題なので美術の本かと思ってしまうが、実質は文字の本である。もうちょっと正確に言うと、絵と文字の境界領域、あるいは絵と文字との間の「絶え間ない移行運動」についてのエッセーが、本書の多くを占めている。したがって本書で取り上げられている作品も、絵文字(絵になったアルファベット)ばかりを集めたRobert Massin. La Lettre et l'image.*1やエルテのアルファベット、アンドレ・マソンのセミオグラフィ(書道を真似したような抽象画)など、絵と文字の中間領域を直接扱っているようなものが多い。
バルトの議論は多岐にわたるが、私が目下関心のある絵=文字に関することだけに注目すれば、バルトは大きく分けて二つのことを言っているように思う。一つは、文字言語は音声言語の従属物ではない、ということ。
言語学はどれも、
言語活動
「文字がその真価を(その道具性をではなく)現すには、それが読み得ないものでなければならない」とまで言っている(pp. 80-81)。もっともバルトは、文字が持つ意味(≒キャラ)と、文字の姿(≒キャラクター)が持つ象徴可能力(文字が文字通りに意味している意味から離脱して自由に読まれてしまう可能性)みたいなものとの葛藤を、まったく否定しているわけではない。
もう一つは、絵と文字との関係は(ある限定的な地域における歴史においては絵→文字かもしれないが)循環的であり、どちらかが起源であるということは言えない、ということである。この辺は精神分析における文字の問題につながっていくらしいが、その辺の勉強はしていないのでよくわからない部分もある。
絵文字が開いてしまった「パンドラの箱」第5回--絵文字と日本マンガの親密な関係 - CNET Japanで小形さんが携帯電話の絵文字と日本のマンガ表現との関係に踏み込んだ議論を始めているが、この手の問題に関心がある人なんかにはこの本も面白いんじゃないでしょうか。
*1:英語版だけど:[asin:0289797861:detail]