初年次教育学会第1回年次大会に参加して

11月29〜30日、初年次教育学会の第1回年次大会(玉川大学)に参加した。内容を問わなければ、全大学の実に97%が初年次教育に取り組んでいるということもあり、各大学から数多くの教職員が参加していたようである(参加者全体では385名)。以下のメモは、自分の関心に引きつけたメモで、かつまた記憶に頼っている部分もあるので、偏りや齟齬はご容赦を。

学生の多様化にどう対応するか

学生は非常に多様化している。全入時代になって入学試験は学生の学力をそろえるための機能を果たすことができなくなっている。現在、大学には、学習に対してモチベーションが高い学生もいれば、教室での学習に興味を持たないスポーツ推薦の学生もいる。学生の出発点の違いをどう考慮し、プログラムを開発するか、というのは、初年次教育における大きな問題である。

アメリカでは、人種や宗教など、昔から学生が多様であったために、このような問題についての蓄積がある。例えば従来の「スタディ・スキルアップ型」の初年次教育プログラムのほかにも、モチベーションの高い学生向けの「オナーズ型」などが開発されている。

面談を重視する大学が多い

学生の定着、という意味で、学生と教員との面談を重視している大学が多い。例えば初年次教育科目において、授業とは別に、必ず研究室を訪れて教員と30分面談させる、という実践例も複数の大学で行われているようである。その場合、学生の顔と名前を一致させる、という程度であっても、定着率という意味で効果がある、という報告もある。

また、入学前に入学予定者との面談をしている例もある。外部のキャリアカウンセラーあるいは臨床心理士の資格を持っている教員が入学予定者と1対1で30分ほど面談をすることで、スムーズな大学への移行をはかるとともに、そのときの「カルテ」を主な担当教員に事前に渡しておくことで、入学後も学生の特性に応じた指導を可能にする、というような取り組みをしているとのこと。

職員が積極的に教育に関わっている例

今回の大会にも、非常に多くの職員(教員よりも多い?)が参加していた。中教審の答申案にも「SD (Stuff Development)」という言葉が出ていることからもわかるように、今後非常に重視されてくると思われる。

本大会でも、初年次教育は、図書館や各種学生サービスなどとの有機的な連携が行われることで、効果が高くなるという報告もあった。また、初年次教育に職員が積極的に関わっている例が、多数報告された。

例えば、ある大学では、初年次教育において、Team Teachingという形で図書館課の職員(司書)が非常勤講師として資料収集や情報の絞り込みなどを指導している(学生と資料とを結びつける、という図書館本来のミッションと一致しているため)。図書の探し方、みたいな一般的な技能を教授するだけではなく、大まかな研究テーマから絞り込んでいく課題(「環境問題について」のような漠然としたテーマから、「畜産業界におけるメタンガス削減の試み」のようにより具体的なテーマに絞り込んでいかせる課題)や、ウェブで拾ってきたデータの確実性を図書館の資料を使って検証するためにはどうすればいいか、などの資料の信頼性・質に関する課題などを与える、など、2年次以降の専門教育により密接に関係した教育活動に取り組んでいるとのこと。

FD・SDについて

FDについては、講義科目とかゼミ科目のような大学の主要な授業形態のみが議論されることが多いが、近年の調査では、例えばコミュニケーションの獲得においては、課外授業やサークル活動など、正課外の活動が学生に与えている影響が大きいという結果も出ている。

初年次教育と言っても授業だけではなく、広くは入学直後の各種オリエンテーションや学外オリエンテーションなども初年次教育に含まれるだろう。また、教員が学生と博物館に行ったり寺院を参拝したりする、というような課外活動も、初年次教育ではないが、主体的な学びを促したり、キャリア形成を促したりするうえで大きな成果をあげているのではないかと思われる。

本大会では、このような取り組みを学内で共有するために報告会を開く、というのがFDの取り組みとして大きい、という報告があった。初年次教育をすればそれでOKという風潮も少なくないが、初年次教育の実践報告会において学科の専門科目の観点から注文を付けるなど、2年次以降との接続について教員が意見を出し合うというのもFDになるだろう。

また、このような取り組みに対して、どのような予算措置ができるか、手続きの簡素化などのサポートができるか、などを職員が主体的に考えるのは、SDの一環と言えるだろう。

初年次教育のプログラム評価

2007年時点で、広義の初年次教育を導入する大学は全大学の97パーセントにのぼる。したがって近年では、単に初年次教育を導入するのではなく、それをより効果的にする取り組みを評価する傾向にある(特色GPなどの結果などでそれがわかる)。そのためには、初年次教育が、本当に効果をあげているのかを測定・評価しなければならない(プログラム評価)。授業評価アンケートは教員個々人の授業改善(FD)のためには有効であるが、例えばその科目がそもそも効果的なプログラムであるか、という評価の役にはあまり立たない。

従来は学生がどれくらい知識やスキルを身につけたか、というような視点でのプログラム評価で満足している場合が多い(例えば、授業前と授業後に小論文テストをやることで、能力のアップダウンを見る、など)が、初年次教育の場合は、不本意入学の学生を大学に定着させたり、「主体的な学び」をするように学習観の転換を促すという目的もある。このようなことを考慮すると、態度の変化をみるアンケートも必要であろう(授業中に携帯電話をいじってますか?みたいな質問)。複数の調査では、初年次教育が知識やスキルのアップには貢献しているものの、学習観の転換などにはあまり寄与していない(大学生活に慣れていくと、だんだんサボるようになるが、それを初年次教育は抑制できていない、など)、という結果も出ている。

ただ、短期的に見ればマイナスの変化(例えば、自分でノートをとるのではなく友達からノートを借りるようになる、など)が、長期的な大学生の自己形成において本当にマイナスなのか、ということについては検討する必要があるのではないか、という意見もあった(ノートを借りるようになるのは、グループで問題を解決する能力を高めた、と評価すべきではないか、など)。

また、授業評価アンケートのような定量的な調査だけでは不十分で、定性的な調査も必要であろう。加えて、安定的かつ継続的な評価のためには、どのような質問がどのような変化をとらえるのか、というような、理論的な研究が重要である。

また、これらのアンケートや評価については、学生に公開することが望ましい、という調査報告もされていた。最初は、学生からも教員からもネガティブな感想しか出てこないが、継続することで学生の意識が変化する(アンケートの回答が授業等の改善につながる、という意識が芽生える)とのこと。