情報処理学会 第75回音楽情報科学研究会

ニコニコ動画とか初音ミクとかの発表があると聞いて、行ってみた。とは言え、午前中は花大でミーティングがあったので第1セッションは聞けず、第2セッションから。ポートアイランドは遠い。明日もあるみたいだが、授業があるので参加は無理。会場で江渡さんに久しぶりにお会いできた。

同じ情報処理学会の研究会と言うことで、ついつい本拠地?のSIGCHと比較してしまう。CHについては最近ARGの岡本さんが研究会文化の違い−情報処理学会 人文科学とコンピュータ研究会第78回研究発表会に部分的に参加してと題して批判していただいたが(有り難い)、音楽情報科学研究会も同じ感じであった (^_^;; 進行がぐずぐずになるのは、私も人のことが言えないのだが (^_^;;

さらに言えば、初音ミクが好き/ニコ動が好き/DTMが好きだから研究テーマにしてみました、みたいな発表が散見されたが、これもCHに似ているところかもしれない。ある発表は、脚注にずらずらニコ動の作品へのURLが並んでる反面、重要な先行研究を踏まえてないのをフロアからがんがん指摘されていたりして(それに対して共著者はニヤニヤしながら「するどい!」とか言ってるし (^_^;;)、学会という場でニコ動で発表して受けをとれればそれで満足なのね、みたいな印象を持ってしまった。初音ミクの発表があると聞いてでかけていく私も人のことは言えないんだけど。CHにもそういう発表ってあるよなー。

逆にCHと違うのは、何かを作ったらとりあえず誰かに使わせて、アンケートをとったりして、評価をしているところだろう。CHの場合、作りっぱなしみたいなのも多いので(人のこと言えないけど (^_^;;)、こういうところは学ばないといけないのだろう。

個々の発表についてコメントを書くのは面倒なのでかいつまんで。

まず興味深かったのは、川井康寛・志築文太郎・田中二郎「動画共有非同期コミュニケーションにおける一体感を向上させるインタフェース」。これは、ニコ動にコメントするユーザの一体感を向上させるためのアプリケーション(Feel_Airというらしい。「空気読め」ってことか?)を作りました、というもの。10人の被験者でテストしただけで「有効である」と言い切るのはすげーとか思ったが、それはともかく、ここで言う「非同期」「一体感」云々というのは、直接引用はされていないものの恐らく濱野智史氏が言う「疑似同期」を踏まえていると思われる。

濱野氏はニコニコ動画の時間性について「疑似同期」という言葉で説明する。動画の同じタイミングで表示されるコメントの1つ1つは、それぞれ現実の時間の流れの中では別の時間に投稿されたものだ。しかし、動画を視聴するユーザーから見ればあたかも数多くのユーザーが同時に動画を見ているような感覚になるということだ。

http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20361654,00.htm

Feel_Airはこの疑似的な同期の感覚を強化するためのアプリケーションとのこと。浜野氏はさらにニコニコ動画とAR(現実拡張)技術が可能にする「ニコニコ現実」という未来において「ニコニコ現実」なる方向へと議論を展開しているが、私も以前情報歴史学研究室: 「展示と来館者をつなぐ」ことの難しさでちらっと書いたように「ニコニコ展示」みたいなのができないかと考えているところなので、今回の発表はいろいろ考えるヒントをもらうことができた。

中野倫靖・後藤真孝「VocaListener: ユーザ歌唱を真似る歌声合成パラメータを自動推定するシステムの提案」は、なかなかすごかったです。学術的にも堅実な感じがしたけど、それよりもすごいハックを見せて頂いた、みたいな感想。

ミクさんの実父?とでも言うべきクリプトン・フューチャー・メディア佐々木渉さんの講演「仮想楽器をリアルにする「未来の記号」と、VOCALOIDで注目される「人の形」「声の形」について」は、クリプトンの中の人だから語れる(バージョンアップ情報も含めた)お話もおもしろかったが(いくらユーザだからって、質問コーナーでバージョンアップ情報について聞くなよ!(^_^;;)、個人的には断片的に語られた音の「魂」ネタに興味がひかれた。佐々木さんは、高校時代からサンプリング・マニアとのことで、それが縁でクリプトンに就職し、仕事として数えきれない数のサンプリングされ断片化された音(音楽の一部、楽器音、自然音、その他)を聞いて来た経験から「魂を失った音の断片」を売ること、その断片を繋ぎ合わせることで生楽器などの再現をすることの限界を痛感し、その中でVOCALOIDの構想が生まれたらしい。このネタを突っ込んでいけば、キャラクターと声、身体性の問題に接続するだろう。佐々木さんはミクさんに対して、メーカーとして責任がある、ということをしきりに行っていたのも、これに関連すると思う(メーカーと聞いたら、ここではもちろんミルトン『失楽園』的“造物主”を連想するべし)。

ミクさんの名前は「未来」とかけているらしいが、佐々木さんの未来はロボットがいるような万博的な未来のようである(ミクさんたちは未来のロボットたちの先駆け的に位置づけられている)。『ブレードランナー』的なポストモダン的(と言われている)未来観を通過してしまっていると思い込んでいたので、佐々木さんの未来観を聞いてちょっとびっくりするとともに、ポストモダン的思考に毒されている自分を呪ったりもしたのであった (^_^;;