鬱胸しい

橋本行洋先生よりご恵贈頂きました。ありがとうございます。

  • 橋本行洋「書記言語における新語の成立 ―「鬱胸」の場合―」(『国文学』第92号、関西大学国文学会、2008年3月1日)

タイトルにあるのは「うっとうしい」の「鬱陶」ではなく「鬱胸(うっきょう)」。この論文の後半は「新語」としての「鬱胸」について論じている。

現在、インターネット上には(中略)「鬱胸しい」と表記される語の例がしばしば見られる。
(中略)
この「鬱胸しい」は、「鬱しい」の誤記かと思われるが、このような、ワープロ入力によることが確実な資料に「鬱胸しい」の例が見られることは注目に値する。すなわちワープロソフトで“うっとうしい”と入力して漢字変換すれば、“鬱しい”となるはずであるから、事前の単語登録無しに「鬱しい」と表示するためには、“うつ・きょう”(もしくは“うつ・むね”)と入力したものを変換して“鬱胸”を出した後に“しい”の仮名を加えなければならないのである。したがって、これらの「鬱胸しい」の使用者は、あたかも「うつきょうしい」という語が存在するかのごとく理解しているのではないかと考えられる。そして漢字変換に際しての不審と不便を感じつつ、前記のような迂遠な操作を行って「鬱胸しい」と表示したのではあるまいか。現在のところ、このような例はインターネット上以外の文献資料に認めることは難しいが、あるいは一部の人々の間では既に、「鬱胸(ウツキョウ)しい」なる語が普及しつつあるのかも知れない。

えーほんまかいな→google:"鬱胸しい" おお、ほんたうだ (^_^;; デパートのサイトの用例もあるとのことだが、検索結果を見てると何となく2ちゃんねるの用例が多いような気がするが気のせいだろうか(だとしたら、わざとやってる可能性もありそう)。

ちなみに「鬱胸」という言葉自体は前近代の資料に用例があり、実は論文の前半でその紹介と分析がされている。これらの古い用例と、インターネットの用例との関係は「未詳」とのこと。