少林寺拳法は「総合格闘技」か?

以下、頭でっかちな級拳士の戯言:

少林寺拳法総合格闘技だ、という説明は少なくない。少林寺拳法には剛法(打撃系)と柔法(投げ技、関節技系)があり*1、かつてUWF修斗など総合格闘技のキャッチフレーズとして人口に膾炙された「打・投・極」にほぼそのままあてはまる。もちろん、総合格闘技ではメジャーな技が少林寺拳法にはあるとかないとか、差をあげればきりがないが、大雑把に言えば少林寺拳法総合格闘技という等式をたてることはそれほど間違ってはいないし、現在テレビなどで放映され一般にも普及しつつある「総合格闘技」という用語を説明用に使うのは有効だろうと思う。

ところで、総合格闘技は英語では Mixed Martial Arts (MMA) と呼ばれることが多い*2。直訳すれば「混合格闘技」である。同様の単語として、パンクラスが掲げる「ハイブリッド・レスリング」もあげてもいいだろう。打撃はキックボクシング、タックルはレスリング、寝技に入ったらブラジリアン柔術、みたいな、それぞれ独立した格闘技をまさに混合させたのが今の総合格闘技の原形である。これは元を正せばアントニオ猪木の所謂「異種格闘技戦」を淵源とし、前田日明のリングスが様々な実験*3を繰り返しながら確立したものだと言える。

では少林寺拳法は Mixed Martial Arts なのだろうか? 少林寺拳法のキャッチフレーズのひとつである「剛柔一体」は「mixed 混合」というのとは少し違うように思われる。むしろ Unified Martial Arts 直訳すれば「統合格闘技」と言う表現の方がふさわしいように思われる。

付け加えるならば、ここでは「混合」より「統合」のほうが優れている、などというような優劣を論ずるつもりは毛頭ない。「総合格闘技」という人口に膾炙された概念を厳密化し、議論を深め混乱を抑止するための考察である。

(そのうち続く)

*1:ほかにも整法(東洋医学的なもの)があるが、ここでは格闘技の比較が主眼であるため考慮しない。また、そもそも「行」という位置付けがされている少林寺拳法を格闘技というカテゴリで捉えるのは問題があるだろうが、実際に少林寺拳法を格闘技の一種として位置づける言説があることから、この戯言も一定の価値を持つだろうとは思う。

*2:他には total fight とか free fight とか no holds barred とか、ポルトガル語になるが Vale Tudo とか。パンクラスの語源にもなった pankration は complete strength とか complete victory みたいな意味だが、語源乃至同義語と思われる pammachon には total fight の意味があるという(Combat Sports in the Ancient World: Competition, Violence, and Culture (Sports and History Series))。

*3:ああ、懐かしの実験リーグ。あれは興行ではあったけど、ある意味、非常に学術的価値の高いワークショップ的なイベントだったよなぁ。