プロレスのオントロジ

神崎正英さんが来るというので、情報知識学会関西部会研究会「主題表現としてのクラス階層とシソーラス」を聞きにいく*1。スライドが公開されているが*2、前半は氏の『RDF/OWL入門』*3のダイジェスト、後半は図書館業界で用いられるシソーラスRDFなどにマッピングするにはどうすればいいか、みたいな話であったが、いずれもスマートな整理の仕方で(割に難し目の話のはずなのに)すいすい頭に入ってきた*4Protégéというソフトウェアで推論をやっているのを見て、自分でもやってみたくなる。Javaベースか、ならMacでもOKそうだな。

ところで、講演を聞く傍らずっと考えていたのは、地平線の向こう側のように、常に更新される現実の境界線の外側としてしか成立しないようなもののオントロジって、どうやって書けばいいんだろう?ということである。こんなことを考えるのは、入不二基義氏の「「ほんとうの本物」の問題としてのプロレス」*5を読んでいたためである。ここでの議論、方法論は、氏の主著『相対主義の極北』*6と通底しており、プロレスや各種格闘技などで言われる「強さ」というものをとことん追いつめていき、「ほんとうの本物の強さ」というものが地平線の向こう側のような形でのみ「いきいきと」存在するとし、そして反則や不測の事態*7といった境界を更新するための装置を本質的に有するプロレスこそがこの「ほんとうの本物の強さ」との交信を可能にする唯一のジャンルなのである、という主張である。

ここまで深く考えなくても、プロレスというものの上位クラスは何かと考えると、けっこう悩む。所謂「ジャンルの鬼っ子」の真面目を発揮!といったところであろう。ボクシングや空手であれば、武道とかスポーツとかの上位クラスをいくつか設定すれば簡単に書けそうな気がする。総合格闘技やヴァーリトゥードは、ボクシングなどから見て上位だと言えるかもしれないが、mixed martial artsということでいくつかの格闘技の多重継承として書く方が穏当かもしれない。

プロレスは同様に、アマチュアレスリングをはじめとするいくつかの格闘技やスポーツの属性を継承していることは間違いない。だから総合格闘技みたいに多重継承で書くこともできるだろう。しかし、「一流のプロレスラーは箒とも試合をすることができる」みたいなロジックは、総合格闘技などとは一線を画す部分であり、その意味でアマレスなどは上位クラスではない。演劇や芸能を多重継承しているのだ、という考え方もあるだろうが、一方で予定調和ではないガチンコな試合もあり、しかもそれが本当にガチなのかは永遠に納得できる答えがでないのがプロレスである。どんなに裏をめくっても虚構性が消えないのがプロレスの本質である、と言えるかもしれない。あるいは、少年マンガ誌によく見られる「強敵のインフレ」状態とも似た、常に「その上」を求められ、しかも終わりの無い疑似インフレ状態こそがプロレスの本質であり、面白みであり、また悲劇*8でもある、とも言えるかもしれない。

こんなの、無理矢理クラスとして記述するとしたら、時間の経過とともに別のクラスとくっついたり離れたりする不安定で動的なクラスなんてことになるかもしれない。そういうのが書けるシステムは、それはそれで魅力だったりするのであるが、面倒そうである。でも、これから仲間たちと共同でやろうと思っているSNSみたいなもの*9は、まさにそういうものを志向しているのかもしれない。

# ああ、また面倒くさくなって後半を端折ってしまった。

*1:ちなみに、大阪ではまた乗り換えに失敗して遅刻してしまった。環状線に乗ろうと思ったら、なんとユニバーサルスタジオ直通電車とやらで、環状線から外れた変なところに行ってしまったのである。何とかぎりぎり講演には間に合ったが、大阪の電車は嫌いである。

*2:http://www.kanzaki.com/works/2006/pub/0923nal.html

*3:ISBN:4627829310:detail

*4:もっとも、オントロジというものをクラスベースに限定してしまうという氏の割り切り方?には不満がないわけではない。説明上、あれが多分一番よかったんだろうけど。

*5:以下の媒体に収録:ISBN:4795240647:detail ISBN:4791710878:detail

*6:ISBN:4393329031:detail

*7:不測の事態が起きるためには、当然のことながら「予定」がなければならない。

*8:だって、インフレし続けろったって、そんなことはできないもの。

*9:http://d.hatena.ne.jp/moroshigeki/20061021#1158663485 参照