駕籠真太郎のマンガ

メタなマンガがあると聞いて購入してみたが、これが結構当たりであった。

件のメタなマンガが収録されているのは『かすとろ式』であったが、ここでは主にマンガのコマに対する様々な実験的な試みがなされている。1コマ目が2コマ目、3コマ目と増殖する(=ストーリーが展開していく)際にどんどん癌化していったり、マンガのページを横から見てみたり、コマがどんどん細分化されていった挙句、点にまで小さくなったコマの集合体が(スーラの絵のように)1コマ目の絵に戻ったり、というような具合で、ストーリーなんてものはないが、おもしろい。

かすとろ式 (Ohta comics)

かすとろ式 (Ohta comics)

ところで上では、マンガという形式についてマンガで書いているので「メタ」と言っているのだが、メタ化(メタな視点で記述)している対象は、必ずしも一つではない。コマという制度の恣意性であったり、マンガを読む読者の視点であったりするので、いっしょくたにすると読み間違えることになるだろう。基本的にすべてエログロなので授業では使いづらいけど (^_^;) メタというものを考えるための手がかりになるだろう。

あと、このマンガ家は仏教思想に詳しいらしく、『ハンニャハラミタ 駕籠真太郎SF短編集』や『六識転想アタラクシア』*1などは、仏教用語*2満載である。「波羅夷」なんて戒律用語をマンガで見たのは初めて。主に西洋神秘主義や密教、中国思想あたりがベースの日本のファンタジー系からは一線を画すので、リテラシーのないそれ系の読者には受け入れられないだろうが、肉体と精神との間の領域を扱おうとするなら部派や唯識などの仏教思想は確かに道具立てとして便利なはずだ。

ハンニャハラミタ―駕篭真太郎SF短編集 (ヤングジャンプコミックス)

ハンニャハラミタ―駕篭真太郎SF短編集 (ヤングジャンプコミックス)


六識転想アタラクシア (F×COMICS)

六識転想アタラクシア (F×COMICS)

読んでいて何か既視感があるのは、丸尾末広先生がSF書いたらこうなるだろうな、みたいな感じだからか。

*1:これは上の『ハンニャハラミタ』を先に読むことをお勧めする。

*2:しかも、どっちかというと部派仏教的。身体の描き方(バラし方)などは非常にモジュール的で、有部の五位七十五法の発想に近い感じもする。しかも『六識転想アタラクシア』では、「無明こそ人の真の姿なり!」というキャラが勝利する?あたり、小乗仏教→大乗仏教的な通俗的仏教史を暗示しているようでもあり、これまたよくできている。