漢情研2006年度夏期公開講座「国際化時代のデータベースとコンプライアンス」

行ってきました。毎年参加者は減少していくが (^_^;; 議論はどんどん濃くなっていく(世の常か)。こんなおもしろい会なのに〜と残ったメンバーは言う。ただし、今回は『新しいカフカ』の明星さんがドイツ文学から漢字文献まで越境して参加してくれたため*1、さらに刺激的かつ楽しい会になった。

新しいカフカ―「編集」が変えるテクスト

新しいカフカ―「編集」が変えるテクスト

今回の石岡先生の講演はまず、イギリスで音楽学者に校訂権を認めたという裁判の結果(「おかか1968」ダイアリー: 楽譜の編纂・校訂者にも著作権が認められる参照。ちなみに私は、de Lalandeのグラン・モテは学生時代に歌ったことがある。石岡さんはこの件について検討するために、de LalandeのCDを手に入るだけ買ったそうである)についてのコメントから。後のフリーディスカッションで、ドイツの校訂権はドイツ固有の問題なのではないか?という議論も出たが、イギリスの例を考えると、単に一国の固有の事情として片付けてしまうのももったいない気がする*2。これについては『漢字文献情報処理研究』第7号の論文に書いてもらえるらしい。超楽しみ。

続いて、著作権関連の国際条約の基本というか原則について学ぶ。内国民待遇とか属地主義とか、またまた知識が増えてしまった。WTOのおかげで、かなり多くの国が著作財産権については同じ土俵に立つことができたようである。ただし、国境を越えた著作権違反が起きた場合に、よその国の輩を国家権力を使って自分の国に引きずり出せるかは、裁判管轄の問題になるので、WTOとかベルヌ条約とかとはまた別問題になるとのこと*3

以前、『ローマの休日』等をめぐる東京地裁の判断はかえってマイナス?で述べた疑問であるが、三権分立において立法者の意志を裁判所が絶対視する理由はないし、また今回の判決は民法の規定に照らせば、まったく不自然なものではないらしい。

そのほか、絶対的排他権である商標登録と相対的排他権である著作権との違いや、ドイツの書籍定価法の話なども興味深かったが、詳しくは10月に出る雑誌*4をご覧下さいな。

*1:本当は「校訂」の問題を扱った1年前の会(http://www.jaet.gr.jp/meeting.html#2005k)に参加してほしかったのだが、人生いろいろあるのである。

*2:とは言え、イギリスの古楽業界も結構特殊かもしれない。

*3:要するに、たいていの場合は泣き寝入りらしい (^_^;;

*4:http://www.jaet.gr.jp/jj/