文字符号の歴史(欧米と日本編)

文字符号の歴史(欧米と日本編) 待ちに待った安岡夫妻の本が出た。これまで断片的に(例えば、一昨年のシンポジウムでの発表とかで)聞いていた話が、このようにまとまった形で読めるとは、非常にうれしい。 内容はタイトルの通り、文字コードの歴史を、電信機の頃から20世紀まで、ほぼ通史的に書いたものである。しかし、類似の諸本とは決定的に異なるのは、その実証主義的な厳密さである。共立出版の新刊案内に、
文字符号の成立過程やその内容に関しては、伝聞や根拠のない憶測はいっさい避け、あくまで文献によって裏づけのとれる事柄だけを、参考とした文献とともに示した。文献学や科学史研究においては、ごくあたりまえとされていることを、あたりまえにやっただけである。
とあるが、文献学者の端くれとして、これにはかなり共感できる。 それと同時に、この本の強気発言は、なかなか刺激的である。
なお、私たち夫婦としては、この本を入門書のつもりで書いた。すなわち、文字符号の歴史に関する入門書であり、基礎資料となるものをめざした。したがって、読者諸氏は、けっしてこの本の内容を鵜呑みにせず、あるいはこの本の記述を孫引きしないようにされたい。この本の内容は、文字符号の歴史の一断面にすぎないし、また文字符号を論ずる際には、当時の文献の参照は必須だからである。
これも当たり前と言えば当たり前なのだが(できれば、資料集として、主要な論文とかをまとめて出版したりしてほしいけど (^_^;;)、要するにこの発言は「イギリスとかアメリカの図書館に通わない人は、文字コードの歴史を云々する資格がないよ」という宣言である。 文字コードに関しては、未だにゴシップまがいのいいかげんな発言が繰り返されている(実はこれはこれで、社会言語学的に興味深いネタだったりするわけだが、それはともかく)。本書の出現によって、一気に議論の水準が引き上げられたことは非常に喜ばしいことだ。と同時に、私も文字情報処理の研究者として、いいかげんなことはできないぞと、気が引き締まる思いがしたのであった。