悪役レスラーは笑う

森達也悪役レスラーは笑う―「卑劣なジャップ」グレート東郷』(岩波新書) 久しぶりに読み応えのあるプロレス本を読んだ気がする。グレート東郷の出自を追いかけるという内容だが、ありがちな暴露本ではない(結局わからずじまいで終わるし、わからないという点に積極的な意味を見いだそうとさえする)。ありきたりなプロレスの昔話の中に、プロレス者としての著者の体験や取材の過程が入り交じり、岩波の編集者まで登場する叙述方法もおもしろい。森達也氏の他の作品にも、内容ではなくそのスタイルになぜか共感に近いものを感じてしまうのは、この人がプロレス者だからだろうか、なんてことが、これを読んでわかったような気がした。