記憶の場(1) ―対立

ピエール・ノラ編『記憶の場―フランス国民意識の文化=社会史〈第1巻〉 対立』 全部読んでいないんだが、勉強会もやったことだし、感想を。 要するにノラが意図したことは、現代の諸問題に対して歴史学(に代表される人文諸学)が機能していないという危機感(これは岩波『世界』2004年8月号インタビュー記事を読めばわかる)があって――それは例えば「今ここにある危機」だけを何とかしようとする最近のアメリカや、そこまでいかなくても全然歴史を知らない若い人が起こす事件とか――こういう歴史を背負ってない人たちを歴史学などの方法で分析可能とするために、彼らの記憶がどのように歴史的に形成されてきたかを網羅的に記述し皆で共有すること(「再記憶化」)で、個人や集団の記憶を歴史化しちゃえということなんだろうと思う。それをフランスでやってみたと。 これはすごいことかもしれない。なぜなら、分析対象に合わせて学問を変化させるんじゃなく、学問に合わせて対象を変化させてみよう!という試みだろうからだ。こういう場合、記述する側の倫理性みたいなことは当然問題になるんだろうけど、現代人である研究者が自分の属する現代において働きかける(ために再記憶化を行う)という構造は、これまで人文学で問題になっていた隠蔽された暴力性を暴く!というようなメタなものではなく、むしろ子供の教育のために嘘をついてもいいのか(たとえが悪いなぁ)みたいなベタな問題なのかもしれない。うーん、メタからベタというと、応用倫理が生まれてきた流れと似ているような気もする。もう少し考えてみないとなぁ。