安倍晴明伝説

諏訪春雄 安倍晴明伝説 (ちくま新書276, 2000年12月) 

安倍晴明伝説 (ちくま新書)

安倍晴明伝説 (ちくま新書)

 

ひいきにしているbk1http://www.bk1.co.jp/)に辛口の書評を投稿したら、どうやら没になったらしいので、ここに書く。

陰陽師安倍晴明の書籍は数多く出回っているが、本書は「信頼できる資料」をもとに「虚像性をはぎとる」ことを目的とした意欲作である。中世以前については名著村山修一『日本陰陽道史総説』を超えるような見解はほとんど示されていないようだが、著者の専門である近世に筆が進むと、晴明伝説の形成過程を丹念に追うことで被差別民の様々な思いを浮かび上がらせようと試みられており、読み応えがある。
しかしながら、看過し得ないミスも目立つ。福島県を差し置いて茨城県を「北限」としてしまうのは単純なミスだとしても、式神の語源の考察で、隋書の「識神」を用例としてあげるのは、植物やモノ(=非情)に精神や魂の存在を認めない仏教の基本概念に照らしても説明不足の感を免れない。
また、古代の陰陽道伝来に関しての議論で、「現存資料のマジック」という言葉を使って推論を組み立てるのは(それがたとえ妥当な判断だとしても)「信頼できる資料」をもとにするという本書のポリシーを著しく損しているのではないかと思われるのである。
本書のように、史実と伝説の両方に対して学術的なアプローチを試みた例はまだまだ少ないため、専門家による後続を期待する次第である。

ダメかなぁ?下手なのかなぁ?